概要

何を研究しているのか

人型ロボットの設計と制御

research overview

何故研究するのか

第一に、人の知能、特に意志決定のメカニズムに興味があるからです。 意志決定の大部分は、運動制御系の働きによって決められてしまうと考えています。 したがって、制御器の設計はこの問題に迫る一つの重要な切口です。

第二に、人のような複雑な力学系の制御に興味があります。 人の運動は、多数のモータが発生する力と、外界から受ける力、そして重力が相互に絡み合ってはじめて成立します。 どうやってこのような系をうまく振る舞わせるか、工学的にとてもチャレンジングな問題です。

第三に、人型ロボットの将来的実用性に期待しています。 人型ロボットは機械の究極の擬人化であって、文字通り、使用者の「もう一つの身体」として最も期待されるインタフェースを備えていると言えます。

何が難しいのか

力学系としての人間の大きな特徴は二つあります。 一つは構造の大規模さ、もう一つは本質的受動性です。 構造が大規模であるとは、可動部分やモータが多いということです。 数が多いだけでなく複雑で、体幹・四肢・末端が単純な階層構造をなしません。 また、本質的に受動であるとは、外界に向かって力を加え、その反作用で外界から「押し返される」ことで初めて制御できるということです。 移動ロボット全てに共通する性質ですが、中でも人型ロボットでは、外界から受ける力(外力)とその結果起こる運動との因果関係が極めて複雑です。

一方、システムとしての人型ロボットの大きな特徴は三つあります。 一つ目は外界に対し開かれていること、二つ目は集積度の高さ、三つ目は処理すべき情報量の多さです。 外界に対し開かれているのは、ロボット全てに言える難しさです。 集積度については、そもそもモータ・センサの数が多く、またそれらを司るコンピュータやバッテリその他諸々、全て持ち歩かなければなりません。 情報量については、多数のハードウェア制御はもちろんのこと、用途に合わせてユーザがソフトウェアを自由に拡張でき、それでも全体が破綻しない仕組みが必要です。

どのようにアプローチするのか

私のバックグラウンドは機械工学と情報工学です。 人やロボットの運動を計算機や実世界の上で扱うために、機構学・運動学・多体系力学・制御工学・計算機科学などをツールとし、次のような研究を行っています。


人型ロボットのマルチスケール力学と制御

マルチスケール力学という考え方

人の運動を表す方程式は、一見とても複雑ですが、よく調べると次のような部分構造を持っていることが判ります。

モータの影響が陽に現れないのは、人のマクロな振る舞いと言えます。 一方、関節や外界との接触点で起こっていることは、ミクロな振る舞いです。 そこで前者のマクロ力学、後者のミクロ力学、さらに両者を橋渡しするメゾ力学と、複数のスケールで全体の振る舞いをとらえ、それぞれのスケールで制御器を設計します。

マクロ力学とミクロ力学への分離は従来から行われていましたが(宮崎・有本1980、古荘ら1981、藤本・河村1995)、両者をどうつなぐか、また制御器はどう設計すべきか、多くが未解決でした。

マクロ力学と制御

どのような複雑な系であれ、地面や壁など外界に加えた力(外力)の反動は重心の加速度として現れます。 したがって外力をうまく操作してやれば、重心の振る舞いを制御できるはずです(Witt 1968、山下ら1972、藤本・河村1995)。 問題は、外力はどのようなものでも与えられるわけではないということです。 具体的には、

という二つの制約条件が課されます。 前者の方がより深刻です。 これは、外力の圧力中心が接触領域内にある、という条件で置き換えられます(Vukobratovicら1969)。 面白いことに、外力の圧力中心の位置を操作することは、外力そのものを操作することとほぼ等価であるということが判っています(水戸部ら1996)。 これは、圧力中心と重心との関係が倒立振子と同じ力学的性質を持つ(長阪ら1999)ことに由来します。 では、圧力中心をどのように操作すれば良いのでしょうか?

私が提案しているのは以下の方法です。

  1. 時間二重外乱吸収法: シミュレーションなどで操作の「お手本」が得られているなら、重心も圧力中心もお手本に近づけるように動かせば良い。ただし両方いっぺんにお手本に近づけると矛盾が起こるので、短期的には圧力中心を、長期的には重心を近づけるように工夫する。
    【参考文献】
    • 杉原知道, 中村仁彦,時間二重外乱吸収法に基づくヒューマノイドロボットの全身協調運動制御,日本ロボット学会誌, 2006, Vol.24, No.1, pp.64-73.
  2. 倒立振子型ZMP操作法: 「お手本」がないなら、倒立振子の台車だと思って圧力中心を操作すれば良い。ただし台車が動ける範囲は接地面内部に制限される。 あまり高度な運動はできないが、お手本に縛られないので、突然押されるなどしても大丈夫。
    【参考文献】
    • 杉原知道, 中村仁彦,ZMP-重心モデルと台車型倒立振子モデルのアナロジーによるヒューマノイドロボットの高機動化制御,日本ロボット学会誌, 2006, Vol.24, No.1, pp.74-83.
  3. 模擬レギュレータ: 倒立振子の台車が接地面の縁に引っかかったら、将来接地面を拡げられるように足も踏み出す。 これもお手本不要なのが強み。
    【参考文献】
    • 杉原知道, 模擬レギュレータに基づく二脚ロボットの重心・運脚統合制御, 第25回日本ロボット学会学術講演会, 千葉工業大学, 2007. 9.
  4. インピーダンス・スイッチング: 圧力中心と重心が仮想的なばねでつながっていると思えば、ばね定数をいろいろ変えることでジャンプもできる。
    【参考文献】
    • 杉原知道, 中村仁彦,可変インピーダンス倒立振子に基づくヒューマノイドの接触状態非依存型コントローラの設計, 第20回日本ロボット学会学術講演会, 大阪大学豊中キャンパス, 2002.9.

メゾ力学と制御

外力ないし圧力中心をこれこれのように操作したい、と思ったとして、どうすればそれが実現できるでしょうか?

圧力中心の位置は、直接的には接触点に最も近い足首のモータで決まります(空尾ら1997、Hiraiら1997、小幡ら1998、梶田ら1999、野村ら2002)。 しかしその結果、足首よりも上にある身体がどのように振る舞うかはよく分かりません。 倒立振子の例えを思い出せば、圧力中心の動きは重心の動き(正確に言えば重心の加速度)と連動しますので、モータを操作して重心加速度を操作できるならばそれは圧力中心の操作とほぼ同義です。 しかし、全身のモータの運動から重心の運動を求めるのは簡単ですが、逆は簡単ではありません。 胴体の運動で近似する方法(長阪ら1999)も提案されていますが、精度向上が課題です。

ところでロボットアームならば、手先の速度からモータの速度を求める方法はよく知られています(Whitney 1969)。 これを応用して、重心の速度からモータの速度を求める方法が提案されています(Boulicら1995)。 重心ヤコビ行列というものを用います。 問題は、アームと違い地面に固定されない脚型ロボットの場合どうすれば良いかです。 ちなみに従来はアームと同じ方法がとられていました(田宮ら1997、平野ら1998)。

この問題に対し私は、接地状態とモータの速度、重心速度の関係を導き、脚型ロボットの重心ヤコビ行列と、それを用いて重心速度からモータの速度を効率よく計算する分解重心速度制御を提案しました。 実際には重心ヤコビ行列だけでは不足で、その他、胴体の姿勢や足先の運動、角運動量など様々な運動を表す行列が合わさり、全体として秩序ある運動が作られます。 この方法は現在、様々なロボットで採用されています。
【参考文献】

ミクロ力学と制御

分解重心速度制御が効果的に働くためには、それぞれの関節で摩擦や重力の影響を打ち消し、モータの速度を精度良く制御しなければいけません。 ロボットアームではよく知られた問題ですが、人型ロボットにその技術を用いるためには工夫が必要です。 これまでに、関節の力学的性質を良くするフィードバックループの外側に、摩擦や重力を打ち消すフィードバックループを重ねる制御を提案しています。
【参考文献】

外界との接点で起こる衝突・接触現象は、モデルと実際の差を拡大する最大の原因です。 その扱いの難しさは、とりわけ順動力学シミュレーションにおいて顕著です。 本来物理的には安定な現象が、様々な数値的におかしな挙動を引き起こします。 そこで、主に数値的悪条件の緩和を目的とした接触のモデル化と数値計算法の提案を行いました。 具体的には、衝突により局所的に起こる物体の変形と大局的な力積変化を融合して各々の数値的な短所を補い合う方法です。
【参考文献】


人型ロボットの運動計画

運動計画とは、スタートとゴールとをなめらかにつなぐ軌道を計算することです。 多くのロボットでは、障害物をよけるなどの幾何学的な制約が主問題になります。 それに加えて脚型ロボットは、計画した運動の反動で生じる外力が、上に述べた制約を満たすようにしなければなりません。 つまり、幾何学と同時に力学も主問題となり、両者を切り分けることができません。

マクロ力学に基づいて、重心と圧力中心でロボットの運動を表現しましょう。 スタートとゴールの条件を満たす重心軌道と、力学的制約条件を満たす圧力中心の軌道とを同時に求めることが目的です(呉松ら1988、梶田ら1991、倉爪ら2003、長阪ら2004、原田ら2005)。 片方をきっちりと守ろうとすると、もう片方に必ず影響が及ぶので、動きを緩慢にするか、何歩分かの軌道を前もって計画するかして辻褄を合わせるのが従来の方法でした。

私の提案する境界条件緩和法は、どちらもほどほどに満たし、どちらもほどほどに諦める代わりに、一歩分の軌道を即座に計画しようというものです。 これによって急な動き出し、急停止などを含むきびきびとした運動がオンラインで行えるようになりました。
【参考文献】


人型ロボットのハードウェア・ソフトウェア

私がこれまでに開発に携わったロボットたちをご紹介します。 詳細についてはそれぞれのページまたは参考文献をご参照下さい。

【参考文献】


人型ロボットの運動知能

下のページを御参照下さい。
東京大学中村・山根研究室アニマトロニック・ヒューマノイドロボットプロジェクト
【参考文献】

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